カルテ開示元年に寄せて PART2

前回の文章はなかなかの反響だったようで、筆者としては嬉しい限りです。そろそろカルテ開示第一号が登場するのでは、とささやかな期待を寄せていたりもするのですが、いかがでしょうか?

カルテは、全部が全部医学上の必要でもって書かれているというわけではありません。特に、短時間で会計処理を済ませなければならない外来カルテにおいては、料金計算に必要な記載というのが結構多いのです。

早い話、外来カルテを開くとすぐのところにある「病名欄」は、医学的に正しい病名を記録するためのものではありません。ここは、保険診療上必要な病名を書いておくところです。だから、病気の名称とその病気に対する保険診療がいつ始まっていつ終わったかの記録がメインであって、その病気の医学的な重症度とか治療方針を書くような欄はないのです。

これはつまり、ここに書いてある病名は必ずしもあなたの病気の名称ではない、ことを意味しています。というのは、ある病気ではないことを確認するために、極端な話、異常がないことを確認するためにする検査でさえ、何らかの「病名」を要求するのが現在の医療保険制度だからです。それが胃の検査であれば、医者が胃には病気がないと考えていても胃ガン(疑い)とか胃潰瘍(疑い)といった病名をつけなさい、というわけです。

ときどき、外来に「頭のレントゲンを撮って下さい」と言う方が見えます。診る側の都合をいえば、診察所見で異常がなければ9割方は「異常なし=検査不要」なのですが、人間の身体に100%確実はありません。つまり「絶対大丈夫」とは言い切れないのがこの業界のオキテです。かくて検査が行なわれ、カルテの病名欄にはすごい病気が並ぶことになります。脳血管障害(疑い)、脳腫瘍(疑い)、クモ膜下出血(疑い)……。「胃カメラ」然り、「お腹の超音波」然りです。

胃カメラをするための方便に、胃ガンという病名が必要になる場合が少なからずあるんですから、カルテの病名欄に胃ガンと書いてあったからといって過度に心配する必要はありません。次回はここら辺の事情からお話しましょう。


「くらしと医療」2001年3月号


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