カルテ開示元年に寄せて PART4

前号の本欄で、わかんないことはまず聞いてみな、と書きました。理由の主なものは既に書いた通りで、あなたが知りたいことと、医師が記録に残したいことと、医師があなたに伝えたいことが必ずしも一致しないためです。しかし、主張の根拠はこれだけではありません。

現状のカルテは、プロが読み書きするものと位置付けられています。これが理由の第二です。つまり、読み手としてシロートさんは意識されていないので、非常に読みづらいんです。だったらちゃんと患者さんが読んでわかるように書いたらいいじゃないか、とエライ人は仰いますが、コトはそう簡単ではございません。

早い話、私はこの文章を読み手を意識して書いています。思いついたことを勝手に書いているだけじゃん、と感じられるかも知れませんが、取り上げる内容やその表現方法について、実は結構気を遣っているんです。テーマとしては、あまり難しすぎず、専門的すぎず、といって、よそでは読めないものを選び、用語、言葉づかい、文体、ひらがな・漢字・カタカナの使い分け、句読点の位置などに相応の注意を払っています。もちろん、私はプロのモノ書きではないのでそのレベルは知れたものですが、それでもそういう配慮のあるなしで読みやすさは段違いです。そして、そういう配慮には当然それなりのコストがかかります。つまり、時間も手間もかかっているわけです。

しかし、残念ながらそうやってできあがったものは必ずしも専門家に読みやすいものとはなりません。プロは、和文での冗長な記述よりも、意味が一意に決まる専門用語を駆使した簡潔な表現を好みます。カルテも然り。患者さんにも読んで理解できるようにと作成された理想的なカルテは、残念ながら私にとっては、業務で使うには冗長で回りくどくてポイントがつかみにくいだけの代物です。世の医師は多かれ少なかれそう考えていると思います。だから、カルテはそう簡単には変わりません。

しかし一方で、患者さんやその家族の方と話すときは、医師は慎重に言葉を選びます(それができるのがプロです)。だから、わかんないことはまずは聞いてみなさいよってわけです。聞いたって真実を教えてくれるとは限らない?イエイエ、人間面と向かってそうそうウソをつけるものではないですよ。


「くらしと医療」2001年5月号


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