カルテ開示元年に寄せて PART10

前回の続きです。

診察室で交わされる会話に限定すれば、話し言葉の最大の特徴は「冗長であること」です。冗長、つまり「だらだらと長い」のです。例えばこんな感じ。かぜで受診された患者さんとの会話です。

今日はどうしました?
えっと、かぜで、、、かぜ引いちゃってオオゴトで、、
いつからどんな具合ですか?
えーっと、先週の、いつだっけかな、そうそう金曜日っくらいから喉がなんとなくおかしくって、そのうち咳も出てきて、、、
熱はないですか?外の症状はどうです?痰とか、鼻水とか、下痢とか、、
ああ、痰は出ます。それに鼻も、、あと頭が痛かったです。おなかの方もちょっとおかしくって、、、
それはいつ頃から?やっぱり先週からですか?
いえ、おなかのほうは最近です。あと、熱は六度五分でした。

ではこれを書き言葉にすればどうなるか。

感冒。全身倦怠感。
○月○日頃、喉の違和感、痛みで発症。咳、痰、鼻汁、および消化器症状あり。
発熱はあっても軽度
とまあこんな感じで、箇条書きにすればほんのわずかの情報ですが、話し言葉で表現すると数倍の長さになります。

ここで問題は、これをカルテにはどう書いたらいいか、です。理論的な説明は後回しにして、私ならばたぶんこう書くでしょう。

カゼひいてオオゴト 先週の金曜くらいからノドがおかしい。そのうち咳でてきた。 痰、鼻水、頭痛あり。 おなかもちょっとおかしい。熱はいまはかって36.5。

前回までに話したことからすれば、こちらが話したことも含めて会話をそっくりそのまま記録するのがベストでしょう。しかし、話し言葉の「冗長性」と限られた診療時間という制限ゆえ、それはきわめて困難です。ちなみに、速記者や録音テープの利用はそれこそ現実離れしています。どちらの方法も、会話記録の再現には記録した時間の倍以上の時間がかかります。それにお金もかかります。

一方、純粋に医学的な情報を記載するという意味では、二番目の箇条書きモドキでたくさんです。しかし、これでは味も素っ気もありません。「カルテなんだからそれでいいじゃん」という意見もありますが、私はそうは思いません。やはり、あとでこれを読むひとに、患者さんその人のひととなりとかこの場の雰囲気を伝えたいです。つまり、私はそのような情報が治療上重要であると考えているので、ぜひとも記録しておきたい。何となれば、カルテの読者は未来の自分である場合が少なくないですからね。

そこで、私はこんなルールでカルテを書いています。

これを踏まえて、先の例をもう一度ごらんください。次回はもう二、三の例を示しましょう。


「くらしと医療」2001年12月号


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