カルテ開示元年に寄せて PART11

みなさん、明けましておめでとうございます。

一ヶ月開いたので、まずは恒例の要約からいきます。カルテの基本はSOAP。S)はSubjectiveのS、主観的なあれこれとして実際に話されたことに近いことを書く。「近いこと」がミソで、話したことそのものを書ければ理想だけど、それは冗長でとても無理。まあこの辺までお話しました。では、以上を踏まえて具体例を示します。

内科のカルテでは、多くの場合S)のところに記載される内容は「病状に変化がないこと」を意味する言葉です。つまり、「変わりありません」「同じようです」「特に悪いところはありません」などで始まっているのが大半です。これを、著変なし、のようには書かないところがミソで、はじめの一言や短い一言は極力言われたままを記録しておくようにするわけです。

内科の外来は、高血圧や糖尿病などの慢性疾患で長期に通院している方の診療が中心となります。いずれの疾患も通常は無症状ですから、内科外来に通院している方の多くは、一見ごく普通の元気な人たちばかりです。だから、病状に変化がないのはむしろ当然のことで、内科医もそういう返事を期待しています。しかも、ずーっと病状が安定していれば、返答も当然ステレオタイプになるでしょう。だから、毎回同じような記載が並ぶのが、内科外来カルテの一典型といえます。「変わりありません」は大いに結構です。

しかし、この点は残念ながらいま一つ理解されていないようです。どうも、病院とはどこか明らかに具合が悪い人が行くところである、と考えている方が非常に多いように見受けられます。もちろんこれ自体は間違いではありませんが、しかし、病院に行かなければならないのは、明らかに具合が悪い人「だけ」ではありません。別に悪いところはないけれど通院は必要という方は大勢います。そういう方が通院しにくくなってしまうとすれば、それはちょっと困ります。

これはテレビにも責任があります。医療系のドラマにはごく普通の内科の患者さんはほとんど出てきません(ちなみにごく普通の内科医も出てきませんねぇ)。理由は簡単、定期通院や定時服薬は、それ自体は地味でしかもあまり面白くないからです。もちろん、見た目の派手さや話題性の追求は、テレビとしては至極当然のことでしょう。しかし、医療というのはそういう派手な部分のみではありません。毎日決まった時間に薬を飲んで、毎月欠かさず通院すること、あたりまえのことをあたりまえにやるのはすごく大変です。

大切なことは、いつも目には見えないものなんですね。


「くらしと医療」2002年2月号


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