見えない透明人間

カルテ開示・・・はお休みにして、今回は少し軽めの話題です。

ずいぶん前に透明人間をちらっと取り上げましたが、あの「ハリーポッター」でも出てきました。ハリーポッターでは特殊なマントをかぶることで透明になります。ふむふむ、なるほど。

私の知る限り、透明人間になる方法は大きく分けて二通りあります。一つは、人間の身体そのものを透明にするやり方、もう一つは、体表面に背景が透けて見えるような仕掛けをして透明人間に見せるやり方です。

人間の身体そのものを透明にするやり方は、結構いろいろな問題があります。最大の問題はなんといっても消化管内容物の処理でしょう。以前指摘したように、消化管の内側は「体外」となるので食べたものが、おそらくは排泄物も丸見えになってしまいます。これ以外にも、裸で歩かないといけない(着衣のみならず靴も履けない)とか、眼鏡をかけられないとか、歯の治療ができない(治療用の歯冠はおそらく透明になりません)など、何かと不便な透明人間です。

では、体表面方式はどうでしょうか。少なくとも上記の点に関しては、体表面方式では特段の配慮は不要です。しかし、では全然問題がないかといえば、そんなことはありません。ものを見るためには光が不可欠ですが、体表面方式では透明化のために入射光の大部分をバイパスさせなければなりません。つまり、外から見えないだけではなく、透明人間自身にも外の世界が見えないことになります。もっとも、そのもの透明化でも事情は似たようなものです。透明化のためには屈折率をゼロにしなければならず、それでは角膜と水晶体で光が曲がりませんから結局何も見えません。

とりあえず、眼だけ残して透明にすれば視覚についての問題は一応解決します。この、いささかグロテスクな透明人間を探すのは、読者諸氏への宿題といたしましょう。


「くらしと医療」2002年3月号


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