カルテ開示元年に寄せて PART13

今回からは、S)O)A)P)のO)の話しです。

O)はObjectiveのOで、客観的な情報と和訳されています。ここに書く内容は、多くの場合「診察所見」です。さらにいうと、診るところは大体決まっているので、毎回同じような感じで書いてあります。その意味では、基本パターンを押さえてしまえば、読解はそう難しくありません。

攻略のポイントは「横文字」と「略語」です。

「カルテはなるべく日本語で」とは昨今しばしば言われるところで、私も基本的に賛成です。しかし、毎日同じようなことをいくつも書くほうの立場も御理解ください。一筆書きもどきができるアルファベットに比べると、漢字かな混じりの日本語はいかにも冗長です。さらに、どのカルテにも必ず書く項目ならば、略して書いても意味は十分通じるはずです。というわけで、O)には横文字の略語が氾濫することになります。

内科の外来カルテをターゲットにするならば、まずはこの5つ、BP、KT、P、conj、chestをおぼえましょう。

BPは血圧、blood pressureの略です。血圧はさらに書きかたが決まっています。今風に言えば「最高血圧、スラッシュ、最低血圧」です。例えば、最高血圧140最低血圧90ならば、BP 140/90 でOKです。ただし、血圧は診察室に入る前に測定されることが多いので、カルテのO)の部分に書かれることは実際にはあまりありません。日付印のすぐ下に書いてある場合がほとんどです。

KTは体温、Kopertemperatur(oはウムラウト)の略です。これはドイツ語で、英語ならばbody temperatureとなります。現に施設によってはBTと表記しているらしいです。ちなみに、血圧はドイツ語ではBlutdruckで、略記すればBDです。北毛生協の医療機関には、血圧をBDと書いてあるカルテも少なからずあります。

体温も、全例で測定するわけではないし、測る時は診察前のことが多いので、やはりカルテのO)の部分に書かれることはあまりありません。血圧同様、書いてあるとすれば日付印のすぐ下ですね。

Pは脈拍、pulesのPです。一分間に何回という書き方をしますが、実際に一分間計測することは稀です。私は15秒間数えて4倍していますから、私の書くカルテでは脈拍はいつも4の倍数です。脈拍は回数のみならず、歩調どりに乱れがないかが重要です。regularなら乱れなし、irregularなら乱れありです。乱れがあればそれは「不整脈」です。

conjとchestはそれぞれ結膜(conjunctivaの略)と胸部の意味です。内科の診察は上から順番が原則で、最初はあっかんべーで結膜を診て、最後に聴診器で胸の音を聞くという流れになります。この二つが実用最低限で、症状によってはのど、首のリンパ腺、甲状腺、お腹、手足などの診察が加わります。

やかましくいうと、結膜には眼瞼結膜(あっかんべーで見せるところ、皆さんがフツー結膜といっているのはこっちでしょう)と眼球結膜(白目の部分、医学的にはここも結膜です)、胸部の聴診には心臓の聴診と肺の聴診がありますが、診察所見が正常ならば、あえて細かく分けずに一括りで書いてしまいます。

以上から、もっともシンプルなカルテでは、O)の部分はわずか3行です。

P 72/min regular conj OK chest OK

余談ですが、圧力や温度には複数の単位系がありますから、血圧や体温をどの単位で表記するかが問題になります。

体温はいつものセ氏(℃)ですからあまり問題ありません。一方、血圧の方はヘクトパスカル(hPa)やミリバール(mb 私は未だにこっちの方がぴんと来ます)といった天気予報でお馴染みのやつは使いません。医学の世界では、圧力は伝統的にミリメートル水銀柱(mmHg)ですので念のため。


「くらしと医療」2002年7月号


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