カルテ開示元年に寄せて PART14

引き続き、S)O)A)P)のO)の話です。

O)には診察所見が書かれます。ここには決まりきったことを書かねばならない場合が多いので、お医者様はことのほか横文字で書きたがります。しかし、医師の横文字のボキャブラリは、一般にあまり豊かではありません。「マコチン」のまこと君はレッツゴー、ヤー、サンキュー、オーノーの四語でロックを歌います(灰谷健次郎著「マコチン」あかね書房)。医師のカルテも似たようなものですから、心配ありません。

異常がないときの表記は本当にシンプルで、「OK」か「o.B.」か「n.p.」です。O.B.は例によってドイツ語でohne Befundの略。n.p.の方は諸説ありますが「no problem」あたりが一般的な解釈です。そもそも、お医者様からして、本当に意味を理解して使っているのか疑問です。

問題は異常があるときです。異常所見の出現し得る部位やその性質はさまざまで、それぞれに表現方法が違います。ただし、頻繁に出現する異常所見は、実はそんなに多くありません。だからこそ少ない語彙で何とかなっちゃうわけですが、これの説明は次回以降にして、今回は大雑把に異常所見の有無を判読するテクニックをお話します。

ズバリ、カルテに絵が書いてあるときは要注意です。もちろん、絵が書いてあれば全て異常ありというわけではありません。レントゲンなど画像系の検査をしたときには普通絵を書きますし、そうでなくとも絵の横に例の「OK、o.B.、n.p.」や「good、W.N.L.」などと書いてあれば心配ありません(W.N.L.はwithin normal limitの略、その心は正常範囲内です)。

一方、「?」とか「!」が書いてあるときは要注意です。医師はボキャブラリーの貧困を補うためにしばしば記号を使います。これが目のつけどころ。「?」や「!」は、つまりそこのところに疑問を持ったビックリしたということで、何か意味がある場合が多いわけです。同様に、アンダーラインがあるときなども要チェックです。何が書いてあるのかはともかく、少なくとも医師がそこに注目していることはわかりますね。

ただし、実際はさらに事情が複雑です。 医療現場ではある症状が「ないこと」、ある異常所見が「出ないこと」によって病気の診断や治療を決めている場合がままあって、そういうときは正常所見にわざわざ印やアンダーラインをつけることもあるからです。ここらへんの呼吸は、それこそケースバイケースですから、これ以上の一般化は無理があります。ではどうするか?答えは簡単、医師に直に聞いてみるのが一番です。


「くらしと医療」2002年8月号


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