カルテ開示元年に寄せて PART18

今回は腹部の診察とその記録について取り上げます。腹部の診察は、視診、触診と聴診が基本です。視診は文字通り見て診察すること、触診は触ったり押したり叩いたりして診察することです。

視診は、見てわかること、例えばできものがあるとか腹が張っているなどを診察します。こういうときはこう見えるとわかっていれば、診察自体はそんなに難しいことではありません。しかし、実際は相当数を見ていないと異常所見にはあたりませんから経験がものをいいます。

触診は、触ってわかることを診察します。一口に「触ってわかること」といっても、非常に多岐にわたります。硬いかやわらかいか、はれていないか、ぐりぐり(腫瘤)はないか、押す(圧す)と痛いか、痛みが響くか、、、見ればわかることにくらべると触るとわかることの方が格段に多いのですが、こちらも「こういうときはこう触れる」とわかっているかどうか、つまり経験がものをいいます。

聴診では、腸が動く音を聴きます。腸が動く音はグル音とか腸雑音とか蠕動音といい、カルテにはbowel soundと書いてあることが多いです。音がしていなくても、しすぎていても異常ですが、正常でも空腹時にはかなり大きな音がする(「お腹がグー」のグーです)など、なかなか見極め(というか聞き分け)は難しいです。ここでもやはり、ものをいうのは経験です。

腹部診察法の詳細はその手の専門書に譲ることにして、以下は、カルテを読む立場からの要点をまとめましょう。

これまで、絵が描いてあるときは要注意と再三書いてきましたが、腹部の場合は例外です。私の経験からすると、なぜかお腹の診察に限っては何も異常がなくても絵を描く医師が多いからです。お腹の絵の描き方も大体決まっています。体の輪郭と肋骨弓(俗にいう鳩尾《みぞおち》です)と股の線を引き、まん中に臍を描く、便所の落書きによくある「宝の地図」の描き方に似ています(前方に険しい山がそびえ、両側に一筋の川が流れている荒野がある。荒野に向かう街道はその手前で二股に分かれ、各々は川の手前で行き止まりとなっている。この荒野の真中に宝がある)。股をVにするかYにするか、臍を○にするか×にするかなど、細部には医者の好みが出ていてなかなか興味深いものがあります。ちなみに私はVで×です。

正常のお腹は平らでふにゃふにゃで、腸が動く音がします。だから、flat and softとあれば異常なし。もちろん、OKだとかn.p.でも大丈夫です。聴診所見は気にしないこと。前述のように聴診所見の見立ては難しく、かつこれが問題になるときは他にもっと判りやすい異常所見が出ている(書いてある)場合がほとんどですから、そっちで判断しましょう。

お腹が痛いときは、押すと(圧すと)痛いか(圧痛 tenderness, Druckschumerz DS)、押すとお腹の筋肉がぴーんと突っ張るか(筋性防御 defense)、押している手を離すと痛みが響くか(反動痛rebound tenderness、虫垂炎のときのやつは特にBlumberg徴候といいます)などが大切で、特に後二者はそれだけで腹膜炎の存在を疑わせる重要所見です。ただし、その所見があってもなくてもdefenseとかBlumberg等々と書いてありますから、早とちりしないように願います。例によって、あるときは(+)ないときは(-)です。

お腹が痛いとき以外は、たいていそのものずばりが書いてあります。eruption(発疹)とかascites(腹水)など、おぼえておくと便利な用語はありますが、大体は見ればあるいはちょっと聞けばわかる範囲の記載でしょう。

あまり診断的な意味はありませんが、obesity++などと書いてあることがあります。obesityは「肥満」、それが++ですから、、、気をつけましょう。


「くらしと医療」2002年12月号


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