カルテ開示元年に寄せて PART20

ひきつづき、A)とP)です。 前回の冒頭は、こうでした。

A)は「診察所見(もちろん問診や検査結果も含みます)やこれまでの治療過程に対する評価(アセスメントのA)」、P)は「治療計画(P)はプランのP)」です。いずれも医者の頭の中のことを書くべき項目であることがポイントです。

そして、アセスメントの例として、病名や治療方針、病状についての見解、医師が話したことなどが記載される云々と、ここまでが前回の話です。

しかし、当然のことながらカルテに書いてあるのはこれだけではありません。

随分前に本欄で、「カルテに隠された真実」なんてたいそうなものはないので、わからないことはまず聞いてみましょう、と書きました。それは今でもその通りなのですが、しかし、それでもやはり「カルテに隠された真実」もあります。ただ、それは世間一般でイメージされているシロモノとはかなり違ったものです。

最近でこそ、ストレスは病気の原因として認知されるようになりましたが、しかし、ストレスそのものの原因、つまりストレスを抱え込み易い性格とか心理的・社会的要因などは、まだまだ病気とは関係ない個人的なこととみなされています。しかし、これらは当然病気の診断や治療に関わってくるので、治療上はかなり重要な情報です。だから医師としては話題にしたいのですが、これがなかなか難しい。

第一、よほど親しい間柄でもない限り、面と向かって「あなたの性格はこれこれだ」と言われたら、喧嘩になるかお付き合いがお終いになるか、いずれにしても良好な人間関係を維持するのは難しくなります。それは、患者さんと医師の間でも同じこと。デリケートな話題をどのタイミングでどう切り出すか、業務上はかなりズケズケものを言う私でさえ、日々結構悩んでいます。

もうおわかりですね。そう、面と向かってご本人様には伝えにくいこういった事柄が、カルテに書いてある場合があります。「患者さん個人に対する医師の主観的な印象はカルテに記載すべきでない」という見解(それも一理あります)の医師もいるので、すべてのカルテにではありません。しかし少なくとも、私が書いたカルテには書いてあります。それは、私がそれらの情報が診療上重要であると考えているからです。

さらに私は、直にはお話しにくいことまで書いてあるからこそ、ぜひカルテを読んでほしいと考えています。言いにくいことは言わずに済めばそれに越したことはない、、プロとしては失格ですが、心ならずもそう願っている医師はわたしだけではないでしょう。

そして、書かれている内容に対して腹が立つのは仕方ないとしても、少なくともショックを受ける必要はありません。「そうか、私は他人に対してこういう印象を与えることがあるんだな」と自分を理解する一助にしてほしいと思います。あるいは「あのセンセもまだまだ未熟だのぅ」でもOKです。医者がいつも正しいわけではありませんからね。


「くらしと医療」2003年3月号


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