胃の中は外?

数学に「トポロジー」という、ものの形を研究する分野があります。たとえば風船を変形して作り得る形はそれがどんなに複雑な表面構造を持っていてもトポロジー的には「球」と同一である、、、てな具合です。人間の身体は一見非常に複雑ですが、つまりは胴体に消化管という穴の開いている筒で、トポロジー的にはトーラス(ドーナツ型)と見做します。

普通消化管(口、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門)は体の中と思われているようですが、このような見方をすればこれはすべて身体の「外側」ということになります。例えば胃ファイバーで見える胃の中は身体の外側です。胃「内」視鏡といっても、見えているのはあくまでからだの外側というわけです。

数学の話はさておき、医学の分野でも消化管は総じて身体の外という扱いを受けています。解剖学的には消化管の細胞には上皮がありますから、外側と言って十分通用するつくりになっています。免疫学的にも、消化管内容物に対しては抗原抗体反応は生じませんから(そうでないとしたら変性蛋白は非常に抗原性が強いので、食事のたびに大変な思いをすることになります。)、免疫という身体にとって非常に基本的な機能も、消化管を身体の外として認識していることになります。

ただし発生学的には皮膚と消化管は起源が違いますから(皮膚は外胚葉、消化管は内胚葉からできる)、やはり外側とはちょっと違うのかもしれません。

ところで、空想の世界ではいろいろな透明人間が登場しますが、私の知る範囲では身体の表面の身につけている衣服は透明にできないようです。とすると、本来身体の外にある消化管内容物はどうなるのかな?


「くらしと医療」1995年10月号


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