あいまいな日本「語」の私

何時(when)何処で(where)誰が(who)何を(what)何故(why)どうしたか(how) .... 5W1Hは情報伝達の基本で、作文の教科書の定番です。もっとも、診察室ではここまでの情報は要りません。必要なのは2W1H「何が(what)何時から(when)どのように(how)」です。

しかし、少ないから簡単かと言えばさにあらず。あいまいな日本語のお蔭で、診察室での情報収集はなかなかどうして大変です。

まず、何が(what)。今日私は、内科外来で5人の自称「カゼ」の方を診察しました。Aさん曰く「身体がだるくて鼻水が出る」、Bさん曰く「鼻水と咳があるが熱はない」、Cさん曰く「鼻水も咳ものどの痛みもないが吐き気と下痢と発熱がある」、Dさん曰く「のどが痛くて声が出ない」、Eさん曰く「タンのからんだ咳が出てのどもいがらっぽいが鼻水や胃腸障害はない」、一口に「カゼ」といっても、その意味するところは個々人で結構違います。だから、「カゼ」と言われても私には全然解らない。結局、根掘り葉掘り質問して患者さんをうんざりさせることになるのです。「そもそも何時から具合悪いの? のどは痛いですか? 咳は出ますか? タンは何色? 吐き気はない? 実際に吐いた? 下痢してない? 熱は? .... あなたの言う『カゼ』って何?」

つづいて、何時から(when)とどのように(how)。「しばらく前」から「時々」ある「ちょっとした」めまいとか、「結構前」から「たまに」ある「軽い」頭痛なども、頻繁に相談を受けます。これもお手あげ。またまた質問攻め。「『しばらく』ってどのくらい前からのこと? 今月に入って? 今年に入って? 『時々』ってどのくらいの割? 二三日毎? 一週間に一回ぐらい? 半月に一回? .... 『ちょっとした』ってのは程度が軽いってこと? それともガーンと来るけどすぐに治るってこと? ....」

曖昧なのは日本語か、日本語を使う日本人そのものか。いずれにしても、あいまいな日本の私は「もうちょっと」何とかならないものかと思案中です。


「くらしと医療」1998年12月号


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