インサイド介護保険 その2

今回から、先日厚生省が公開した一次判定の全国統一基準を詳しく見ていきます。

「渡る世間は鬼ばかり」の登場人物で要介護認定(一次判定)をやってみました。脳卒中後遺症で半身がきかない野田良・弥生夫婦の母ハナや、前回のシリーズに登場した高度の痴呆を有する高橋亨・文子夫婦の母年子が、どのくらいの要介護度に認定されると思います? 答えはそれぞれ要介護1と要介護2です。家事全般をほぼこなし共稼ぎを支えるハナさんと、その激しい問題行動が家庭崩壊の危機を招いた年子さんが、要介護度ではたった1ランクの差しかありません。これって何かおかしいでしょ?

しかし、ではどこがおかしいかというと、話はそう単純ではありません。

一次判定って、つまりは何でしょうか? それは、「基本調査」と呼ばれる85項目の質問への解答に基づいて「要介護認定等基準時間」を算出する作業です。これさえ求まればあとは単純な割り振りで、算出された基準時間が25分未満なら自立、30分未満なら要支援、以降20分増える毎に要介護1,2,3,4とあがり、110分以上なら要介護5となります。

再三繰り返しているように、この作業は更生しよう御自慢のコンピュータ様がやります。しかし、コンピュータだからものすごく複雑な計算をやっているのかと思えば、さにあらず。やってることは実にシンプルで、なんと、質問への答えがハイならこっちイイエならこっちという具合に枝分れを進めていって、行きついた先でハイ何分と決めているだけです。この枝分れには「樹形モデル」なんて大層な名前がついていますが、雑誌の心理テストや相性診断などでお馴染みの例のやつにすぎません。だから、作業そのものは私のホームページでできるし、時間さえかければ手作業でもできます。

実際の一次判定に用いられる樹形モデルは、質問項目そのものや関連する項目を引っくるめた一群の点数(「中間評価項目得点」と名前がついています)で構成されます。こういうのが介護の種類ごとに9つあり、それぞれで求めた基準時間の合計をもって要介護認定等基準時間とします。樹形モデルには必ずしも全ての質問項目が登場するわけではありません。いろんなところに度々出てくる項目もあれば、中間評価項目得点としてしか反映されない項目もあります。ここらへんはすべて更生しようの思しめしです。

さて、いよいよ問題の核心です。このありがたい「思しめし」、残念ながら現場の感覚とはちょっとずれているんです。このミスマッチが、冒頭の野田ハナさんと高橋年子さんの判定に現われた違和感の正体なのでしょう。やっと面白ろくなってきたところですが、大分制限字数を超過してしまいました。今宵はここまでにいたしとうございまする。


「くらしと医療」1999年6月号


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