こんな本 番外編



 よい本と出会えた時は、何にもまして幸せで、それを味わいたいために次々と本を読むのかもしれません。
 「そんなとき、こんな本」は、自ら読んだ中から、多くの人におすすめできると思われる本を選んで紹介しています。自分一人の選択なので、偏りはありますが、まずまず読んで損はしないのでは、場合によっては、感動してもらえるのではという期待を抱いて掲げています。ホームページを開いてからは、読んでよかった本をここに挙げるという楽しみも加わりました。

 しかし、読んだ後に「ムムム……」と思う本もあるわけです。つまり、どうも自分の感覚にフィットしなかったとか、これはあまりオススメできないなといった本に不幸にしてぶつかってしまうことがあります。中には、読んだ時間を返してくれ!と叫びたくなるような本もあるわけで、まあ、自分の嗅覚がうまく作動しなかったのだから仕方ないといえばそれまでですが……。でも、読んだからには、思ったことを書きたいし、さりとて、「そんなとき、こんな本」のコーナーを「雑文のひきだし」のようにはしたくないし……。

 というジレンマから産まれたのが、このページです。ですから、ここに載せた本は、あまり褒めていません。その作者のファンが読んだら、怒り心頭に達するかもしれませんし、読もうと思って買った本がこの中にあったら、ゲンナリと興を削がれて読む気が失せるかもしれません。
 ですから、どうか個人のタワゴトと思って、ここを通り過ぎるか、適当に読み飛ばしてください。ざっぱくに言えば、出会った本が自分の感覚に合わずに愚痴っているだけですから。あるいは、「そんなとき、こんな本」に載せられず、スネているだけですから。



柔らかな頬
桐野夏生 講談社
 1999年10月12日に、三浦綾子さんが亡くなった。それについての談話として、13日の読売新聞に、桐野夏生さんはこう語っている。
「北海道が舞台の『柔らかな頬』を書いたとき、同じく母が子供を失う話として、中学生の時に読んだ『氷点』が頭をよぎった。三浦さんは人間の原罪を追求されたと思う。同じ女性作家として、家族の問題、親子の問題をあのころに深く掘り下げた先達として尊敬していた」
 「柔らかな頬」は、孤独さを描くという点では、読み応えのある作品ではあった。しかし、家族については、ひどく冷めた視点で描いているのが気になる。これで親子の姿を深く洞察したと言えるのだろうか。読み手の心を弄んで喜ぶのが文学なんだろうか。
 最後までひっぱっていく筆力は相当なものだと思うが、幼女失踪という題材についても、ラストについても、どうにも後味が悪くてしかたがない。

照柿
高村薫 講談社
 「マークスの山」に感激して、その続編のミステリーだと思って読み始めると唖然とします。ひたすら暑さと暗さの描写がつづきます。西日・溶鉱炉の炎・寝不足・頭痛などが繰り返し表れます。しかも、身を焦がすほどのどろどろした情念が引き出される世界です。
 「マークスの山」で颯爽と活躍した合田刑事が、ここでは人間の弱さを赤裸々に体現します。両作品は同じ登場人物が多いのですが、あまりの風景の違いにとまどいました。「マークスの山」は、サスペンスに満ちたページをめくるのが楽しみな作品でしたが、「照柿」は、なんだか早く読み終わりたいという思いに駆られる作品でした。しかし深い魅力を秘めており、あっという間に読んでしまえました。
 人間の心が最大のミステリーだという観点にナットクできれば、おすすめです。


スナーク狩り
宮部みゆき 光文社文庫
 面白かったです。読みやすいし、最後まで飽きないし、そこはかとなく哀感もただよっているし。で、なぜ「そんなとき、こんな本」に挙げないかというと、あまりに作りすぎている感じがあるから。美貌の女性が、ふられた男の結婚式の場で、散弾銃を使い自分の頭を吹き飛ばして死のうなどと考えるかあ?そんな醜い死に方は、いかに心の痛手をおったとしても選ばないと思うのですが。
 それに、内容があまりに「火曜サスペンス劇場」ぽっくて、どうも。場面が切り替わるたびに、チャチャチャ、チャーチャーーアンという、あのメロディーが頭に流れ、コマーシャルが始まる気分に時たま襲われてしまったのです。(最近はあまり見てないんですが)
 でも、長距離列車に乗って、北陸を目指したりする時に読むと、雰囲気があっていいかもしれません。悪い作品ではないので、相性の問題だと思います。


長い家の殺人
歌野晶牛 講談社文庫
 歌野氏の処女作。文章はまずまず、ミスディレクションもなかなか良いのですが、肝心の密室トリックがちょっとチャチではないかい。
 音楽に対する愛情は感じます。


姑獲鳥の夏
京極夏彦 講談社ノベルス
 最初の雰囲気は悪くない。古本屋の主人を訪ねるあたりの情緒はいいなと思う。しかし、ウンチクを延々と聴かされて、話が前に進まないのはまいったねー。それがいいと言われてしまえばそれまでですが。で、探偵らしい人が出てきたと思ったら、これがなんだかドタバタで、最初の雰囲気とずれてきて、ま、そのミスマッチがポイントと言われてしまえばそれまでだけど。そして、これら主要な人々がしっかり性格づけされ、念入りに造形されている割に、他の病院の人々や市井の人々の描き方がひどく雑な感じがする。
 雰囲気が先行して、人物の厚みがいまひとつと感じるのですが、ちがいますか?
 まあ、これは読んだ時期が悪かったのかもしれない。妊娠している女性がそばにいて、気持ちよく読める本ではないな。その気色わるさがウリと言われればもう、それまでなんですけどー。

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