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病気日記 1995年



9月24日(日)
中毛地区演劇コンクールの審査員を依頼され、共愛学園の小ホールへ行く。肌寒く、ぎゅうぎゅう詰めのホールで足も組めない。腰が痛く、劇に集中できない。控え室で腰をたたいていると、もう一人の審査員である金子先生に大丈夫ですかと言われた。
 「持病なんです」と言ってから一通り説明した。もう十年くらい前に整形外科でレントゲンをとってもらったこと、その結果、脊椎に小さな穴があいている以外は正常だといわれたこと。穴といっても3ミリ程度の小さなもので、腰痛はそれが原因ではないこと。内臓が原因かもしれないと言われたこと。冷えると腰痛がひどくなるので靴下をはいて寝ることまで説明した。
 「それは正真正銘の持病ですね」と言われ、「いやあそれほどでもないですけど・・・」となぜか謙遜したりした。持病持ちが偉いわけでもあるまいに。
 そこへ共愛学園の荒井先生がやってきた。金子先生はすかさず私の持病のことをそっくりそのまま荒井先生に話した。荒井先生は恐縮していた。「知らずに審査員などお願いして悪かったですねえ。このコンクールは壺内先生の腰を第一に考えてやっていきましょう」と言った。
 たいへん大げさなことになってしまったのだった。

9月29日(金)
 コンクール2日目。県民会館に着くやいなや、荒井先生から「腰はどうですか」と聞かれた。話のネタがあるってのはいいことだ。持病こそ、人と人とをつなぐコミュニケーションチケットだ、などとしょうもないことを考えていた。そこへ金子先生がやってきた。「腰はどうですか」」と全く同じ事を聞かれた。そのうち荒井先生と金子先生がたばこを吸い始め、「壺内先生は吸わないの」というので、「ちょっと不整脈がありまして」と言ってから一通り説明した。
 心臓が横着して三回に一回休むこと、その休んだ分だけ次の回に血液の流量が多くなるから、その時息が苦しくなること、健康診断では病的なところまではいっていないと言われたこと、たばこを吸うと不整脈の頻度が高まることなどを説明した。
 荒井先生がそれを聞いて、「すごいねえ全く、腰痛があって、不整脈があって、花札でいえば、イノシカチョーだね」と言って笑った。私も笑った。みんなで笑った。
 持病ってのはいいもんだ。
 私はさらに調子に乗って「まあ、趣味の病気みたいなもんですから」と言って笑った。
 心臓がちょっぴり痛んだ。

9月30日(土)
 コンクール三日目。
 今日は最終日。12校中3校を選ばなくてはならないので、みんな緊張していて、持病の話は出ないのでさみしい。しかし、実のところ、今日の腰痛は今までで一番ひどかった。病気ってのはそういうものだ。本当に重症で苦しいときは誰も相手にしてくれないのだ。だから黙って耐えるしかない。
 伊勢崎高校が「stop doctor」という創作芝居をやった。これは現代の健康神話を茶化したもので、病気にポイント制を導入し、重い病気ほど高いポイントがもらえるという病院の話だ。ポイントを集めて海外旅行へ行こうとうのだが、たいがい旅行へ行けるポイントがたまるころにはその患者は死んでいるという面白い芝居だ。私は気に入ったが、第4位に終わった。

10月6日(金)
 掃除の時間、焼却炉の横を通りかかると、公使の中村さんが突然、「壺内先生、最近調子はどうですか」と話しかけてきた。最初は何のことかわからなかったが、「風邪がはやっているようですけど」というので、身体の調子のことを聞いているのだとわかった。
 「調子いいですよ。私は風邪などめったにひかないんですよ」
 と得意そうに言った。
 やはり世間話は「病気の話」に限ると思った。

10月8日(日)
 油断した。風邪をひいて早寝する。

10月9日(月)
 のどが痛い。学校を休んで滝田医院で吸入と注射をしてもらい、一日寝る。全身に汗をかく。この汗が気持ちいいのだとつぶやいてみる。
 孤独だ。