08-5/18 不虚不実の実践 加藤秀郎

六十九難の使用条件は、

六十九難の読み』へ

  • 一臓損傷であり、その場合は他経治療
  • 腑病は自経治療
  • 正邪の影響で経のみ病むという陰陽一方のみは、自経治療
  • 気血のどちらかだけの寒熱は除く
  • と、言えるかと思います。 
    ただ、実践仕様ではもう少し単純化しても良く、
    『不虚不実では以って經を取るは、是れ正經自生病。他の邪に中たらざるなり』の『經を取る』を《経で治療する》とは考えず、『不虚不実は経の範囲で考える』つまり『不虚不実は経病』だから『是れ正に経が自ら病を生じる』と考えました。
    その上で『他の邪に中たらざるなり』を《正邪以外に中っていない》とは考えず、『邪やそれ以外の物などに中ったという状態ではない』と考えました。
    何故なら黄帝内径の通例で言うと‘正’や‘主’という言葉に対しては‘他’とは言わず‘客’といいます。
    ‘他’は狭い範囲の‘自と他’という区別と、広い範囲の‘種類の違う物’という意味もあって、つまり
    『邪にも邪以外の物にも中っていない』から五臓は病んでいないため『正に経が自ら病を生じている』と、
    したのだと思います。
    ‘邪以外の物にも’という意味を含ませたのは、別学派に論破の扉を開かせない安全装置といえます。
    ‘他’という言葉を置いたのは‘邪’は虚実という病理学での病因論といえ、テーマの中心だからと思います。
    不虚不実の実践とは
    ‘経病’であり、経の内外を流動する‘衛気榮血’の状態とその発生起因である‘三焦水道’

    治療対象となります。

    不虚不実の治療

     ‘経が自ら病を生じる’とは、生体が内外環境の変化への対応を上手く行えなかったと考えます。
    ‘対応がうまく行えない’とは、ホメオスタシスの維持は出来ても変化対応のための生体機能のコントロールに若干のミスがあり、機能の上げ過ぎを「熱」、下げ過ぎを「寒」といい、対応対象が「衛・気・榮・血」となります。そのうえで治療のための病傷状態を区別します。
    ただし情報整理のため 衛気=気、榮血=血 つまり気か血かに分けます。
    そのための診察は「気血のどちらかが寒か熱」の場合とそうでない場合(「気も血も寒か熱」「腑病」「一臓損傷」)に分ける事から始めます。
    この区別の診断を脈で診ます。脈は最も下がったところから押し上がってきて、最も上がったところから引き下がり、やや間があってまた押し上がるという繰返しをします。
    《押し上りに特徴》が診られれば“緩か急”の脈で、「気血のどちらかが寒か熱」。
    《引き下がりに特徴》が診られれば“滑か渋”の脈で、「気も血も寒か熱」。
    《脈と脈の間に特徴》が診られれば“遅か数”の脈で、数は「腑病」。遅は「臓病」。

    気血のどちらかが寒か熱〜緩急の脈〜

    状態を知る。
    押し上りで、
    急な感じ
    ‘急脈’
    緩い感じ
    ‘緩脈’
    原因を知る。
    押し上り前半の上り始めたところに特徴が見られれば‘血(地)’=沈めて診た脈(下を見に行く)。
    押し上り後半の上がりきる手前に特徴が見られれば‘気(天)’=浮かせて診た脈(上を見に行く)。
    この緩か急の脈により気血のどちらかが寒か熱の状態と診断できます。

    緩急の脈状で「気血のどちらかが寒か熱」を知り、浮沈によって「原因と治療点」を知る。
    脈で緩急の診断できたら次は指を少し沈めて診る(下を見に行く)。
    沈めた時に、《太くなる》様であれば 『足の厥陰経』。(余剰栄養の燃焼)
          《細くなる》様であれば『足の太陰経』。(不足栄養の追加)
        《あまり変化がない》ならば『足の少陰経』。(先天機能の活用)

    に対して、浮かせて診た(上を見に行く)時に脈状が
        《よりはっきりする》様であれば『手の厥陰』。(過反応の鎮静)
         《消えてしまう》様であれば『手の太陰』。(生体反応の促進)
    を選経し、治療ポイントとする。

    浮かせても沈めても特徴が解りづらい場合は、寒熱の治療ではなくなる。
                   そのため手の少陰という証は建たない。

    気も血も寒か熱〜滑渋の脈〜

    引き下がりで、
    早い感じ
    ‘滑脈’
    で、
    気熱血寒
    遅い感じ
    ‘渋脈’
    気寒血熱
    これは気と血の生体動作が、逆の機能状態にあります。

    脈の形状

    四十九難に言う正経自病の可能性を考え『他の邪に中たらざるなり』を含めて、
    中ざるとも「正邪の影響での経の病」と考えます。
    状態は‘気熱血寒’か‘気寒血熱’ですが、
    原因の診断と治療点の選経は十三難を参照します。
  • 尺膚と脈の滑渋の一致をチェック 〜不一致は別考察〜
  • 各経絡を撫でながら、滑渋の脈の変化をチェック
  • もしくは切脈する指腹に当たる脈の感触と、上下するストロークの形をチェック
  • 色の望、脈や尺膚の切、臭いの聞、味の問の四診の一致性のチェック
  • 弦で急
    浮大で散
    中緩で大
    浮渋で短
    沈濡で滑
    切脈する指腹に当たる脈の感触とは
    木は、指に当たる脈の感触がやや鋭利
    火は、やや太みがあって指に脈が当たった時に弾力がある
    土は、火の時ほど指に当たってこなく、弾力と言うより緩衝的に拡がる
    金は、指に当たる脈の感触がやや軽く、押し上がる途中が解りづらい
    水は、やや圧力を持って切診し、押し初めは明瞭だが上下の幅が短い

    治療は
    脈と色や臭い味などの一致性の高いところを選経。
    さらに経内の経穴を触診し、滑渋の脈が最も‘平’へと移動し易いところを選穴。
    症状が陽性であれば、榮火、兪土。陰性であれば、経金、合水の、傾向。
    尺膚と脈の滑渋の不一致の場合は、九難の遅数の脈のチャック
    数ー腑ー熱 この場合の熱は
    作用や条件を受けた対応機能の発動。

    遅ー臓ー寒 この場合の寒は
    機能発動の監視と指令
    九難曰.何以別知藏府之病耶.
    九難に曰く.何を以って藏府の病の別を知るか。
    然.數者府也.遲者藏也.數則爲熱.遲則爲寒.諸陽爲熱.諸陰爲寒.故以別知藏府之病也.
    然るに、数は府なり、遲は藏なり。數は則ち熱を爲し、遲は則ち寒を爲す。
    諸陽は熱を爲し、諸陰は寒を爲す。
    故に以って藏府の病の別を知るなり。
    数脈とは、下がりきらないうちに上り始める脈。遅脈は、下がりきってしばらくして上がる脈。
    この場合は『虚実の実践』